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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

「小さい子の健康は便でみわけをつけるというくらいではないか、そんなことでは大切な乳母の役はつとまらぬだろう」

こう云って叱り、信乃もよく気をつけるように注意された。

そんなごたごたもあり、予想よりも早く良人が客を伴れて来たので、夕方の二時間ばかりは、信乃は息をつく暇もないほど忙しかった。客は五人、十時まえには帰ったけれども、良平は接待が気にいらぬらしく、客が去るとすぐ信乃を呼んで怒った。

「膳の物も給仕もなおざり過ぎる、朝から申しておいたのに、ぜんたいなにをしていたのか」

召使にでもどなるような荒い声であった。信乃はあやまらなかった、自分でもよそよそしいと思う声で、下を見たまま云った。

「――甲之助が急に病気になりまして」

良平はちょっと息をのんだ。

「病気とは、……どんな病気だ」

「――医者の申しますにはたいへん腸を悪くしているそうで、二三日は大事をとるようにとのことでございました」

「それなら城へ使いをよこすべきだ」

こう叫ぶと、どこに寝かしてあるかといって、良平には珍らしくせかせかと立った。

甲之助はその夜ひきつけを起した。医者を呼びにやり、手当をして貰うとおさまったが、明けがたまで間歇的にふるえの発作があって、信乃はとうとう朝まで寝ずに看護していた。