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めおとよろい

めおと鎧

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年1月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页

青空文庫

五

朝から降りだした雪がまだやまず、戸外はもう踝を埋めるほど積っていた。かれは山地のほうへ、けんめいに走った。おおいという叫びごえが聞えた、三度めには、よほど遠かった、それでふりかえってみると、吹きまくる雪のかなたに弥五郎の姿がちらとみえた。孫兵衛は、首里岳のほうへまっしぐらに走りつづけた。

五

年があけて、慶長五年となった。孫兵衛の息むひまなき転々流浪のあとを記す要はあるまい、秋八月、かれは加賀のくにで、石田三成の挙兵をきいた。――治部少輔どのの軍勢が、伏見城をとりかこんだそうな。伝わってきた風評は、すでに戦がかなり発展していることを示していた。そしてその事実を証拠だてるように、金沢の前田利長がにわかに出兵し、おなじ加賀の大聖寺と小松城との攻撃をはじめた。大聖寺には山口宗永、小松には丹羽長重がいる、両者とも石田軍に属する北方のまもりだった。孫兵衛は、しまったと思った。待ちに待った時が、あまり早くきた。そして戦は、きわめて急速に進捗しているようである。――もし合戦におくれたら。ああもしそんなことになったとしたら、武士の名もすたれ、二百余日のあいだ意地をしのんで隠れまわった苦心が、水の泡となってしまう、かれはとびたつように出立した。