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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
口で言うても分らぬ奴だと、しかし、他吉はさすがに孫娘の婿に手を掛けるようなことはせず、その代り君枝を河童路地へ連れ戻した。君枝は存外悲しい顔もせず、この半年の間に他吉がためていた汚れ物を洗濯したり、羅宇しかえ屋の婆さんに手伝ってもらって蒲団の綿を打ちなおしたりした。ひとり者の〆団治の家の掃除もしてやり、そんな時君枝は鼻歌をうたい、水道端では、
「うち出戻りやねん。」
と、自分から言いだして、けろりとした顔をしていたので、ひとびとは驚いたが、しかし、そうして路地へ戻して置けば、次郎はもうあとの心配もなく、かつ奮発してまた潜りだすだろうという他吉の単純な考えを、君枝もまた持たぬわけではなかったのだ。もちろん、次郎が潜り出せば、他吉の気も折れて、もと通り一しょに暮せるとの呑気な気持であった。
ところが、次郎はそんな思惑に反して、一向に潜りだす気配は見せず、職を探してぶらぶら歩き、時には君枝に去られたことで気を腐らして、飲み歩いた。そうして、ある夜、余程うっかりしていたのか、トラックにはね飛ばされ、命は助かったが、退院までには三月は掛るだろうという大怪我だった。