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イエスでん

イエス伝

矢内原 忠雄

マルコ伝による

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 220,119 字 · 436 页

青空文庫

6 キリストの権威についての問答――父なる神

イエスはキリストとしての自己の権威を主張するにあたり、神より遣わされたる愛子たることを暗示した。すなわち神はイエス・キリストの父である。「父なる神」、これが人格神としての神の性格である。そして神を父と見るこの信仰が、イエスに対し神の本質についての深き洞察と、神との親しき霊交と、論戦を一貫しての自由さ、新鮮さ、知恵と勇気とを賦与したる根本である。イエスの敵は神との活ける交わりを欠いたがゆえに、彼らの神観は形式的であり、概念的でありで、化石したる公式主義的把握となった。これに反しイエスは神を父と信じたがゆえに、自由無礙なる新鮮なる生命力、行動力が、彼の神観より泉み出たのである。

イエスの見たる神は歴史の神であり、国家の神であり、個人の神であり、霊と真実とをもって拝すべき唯一の人格神であり、かつ自己の父なる神である。イエスは神学者風にその神観を系統化しない。しかし神学上の神観の精髄はことごとく彼の言の中に含まれている。何よりもイエスの神観は活きた神観であることに注意しなければならぬ。かかる神観は活きたる知識であって、信仰生活の原動力たり推進力たりうるものである。