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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

私は用心しながら話す。先方は故参だから遠慮がない。

「毎日斯うやってセッセと働いていても、下積みは詰まりませんな」

と或日香川君の方から不平を言い出した。

「私なんか下積みの下積みですから。ハッハヽヽ」

「君は幾らでお出になったんですか?」

「八十円です」

「それなら特別好い方ですよ。学校を出たばかりのものは六十五円です」

「はゝあ。私の下にまだ下があるんですか?」

「ありますとも」

「尤も私は学校を出てから、もう十年以上になります」

「今まで矢張り会社丈けでしたか?」

「いや、新聞社だの雑誌社だのって、方々歩きましたよ」

とつい告白して、私は急に口を噤んだ。方々で首になったことを喋るなと言われている。

「世の中の荒浪に揉まれましたね」

「はあ」

「しかしこゝは大きいですから、清濁併せ飲むって具合で、首なんてことは滅多にありません」

と香川君はもう察してしまった。

「勤め運の悪いものは仕方ありません。まあ/\、こゝで拾って貰ったのを振り出しに、下積みから仕上げます」

「八十円なら必ずしも下積みじゃありませんよ」

「しかし大抵の人は上でしょう」

「それは上には上があります。課長だって上を見れば果しがありません。