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シナーニしょてんのベンチ
シナーニ書店のベンチ
宮本 百合子
「文芸春秋」1928(昭和3)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,387 字 · 15 页
スタニスラフスキーも出なかった。他の誰も。――俳優はすべて、方々の劇場からの臨時かり出しであった。これはただ偶然か、或は意味ある現象なのか。
演出は決して飛び切りとはいえなかった。でも、我々には二重に或るものを遺して行った。一つは「検察官」とは正反対の性質をもった作品の一列として桜の園は翻訳ではほとんど生命を失うものだ。桜の園の髄を貫いているのは、現在のロシアにおいては過去の社会現象に属する地主と町人との地位交換問題ではない。ある時代のロシアの魂、その魂は、ロシアばかりにしかなくて、ロシア生活の根で二千百三十五万二千平方粁の上に発生する感情と智慧はそれから翔び去れないところの魂のある姿なのだ。そうでないとしたら、社会主義者で芸術家である秋田雨雀さんが、大劇場の桜の園を観た一九二八年に漸く、ロパーヒンは悪人じゃありませんねえ、という興味ある評言を発されるようなことがどうして起ろう。築地はそんなに下手に演じたか? 否。例えば汐見の爺やは、ここの爺やより巧に、効果的に演じられた。演じられぬ魂が、築地のリファインされた全舞台の上に、日本に、欠けていたばかりだ。