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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页
土曜、日曜に、モスクワの購買組合では一切酒類を売らない。ピオニェールや青年共産主義同盟員が、官僚主義の排撃や禁酒運動のために活動する。その団体が「軽騎隊」なんだ。
暫くして、
「おい! いい加減にして来ねえか!」
横になってる信吉のところまで、怒ったブリキヤの声で廊下の女房を呼ぶのが聞えた。
今朝は、然し何も彼もいつもどおりだ。
内庭で信吉は建物の別な翼から出て来るエレーナに行き会った。
腕に買物籠をひっかけたエレーナは、信吉を見ると、後れ毛をかきあげるような風をして持ち前のカサカサ声で挨拶した。養育料請求のとき証人になってやってから、エレーナは信吉と口を利くようになったんだ。
「――知ってるか? グリーゼルが昨夜引っぱられたよ」
「知ってるよ」
二人は並んで古い木の門を出た。
「……お前困りゃしないのか? 金はどうするんだい?」
エレーナは、俯いて歩いてはいるが穏やかな悄気てない調子で、
「私は安心してるよ」
と云った。
「お金は、労働矯正所の方からチャンと送ってくれるんだってもの……あすこにはいい紡績工場があって、出て来れば工場へ入れるようにしてくれるんだヨ」