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トコヨゴヨミ

トコヨゴヨミ

田山 花袋

「早稲田文学」1914(大正3)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页

青空文庫

暑い日影の照ったことなどは殆ど一度もないと言って好い位であった。秋の末のような薄ら寒い気候が農作に肝腎な夏の盛りのすべてを占めた。此処では、五日でも一週間でも好いから、くわっと暑い日の光線の照りわたるのが必要であった。強い日の光を受けさえすれば、作物は一日、二日の中に三尺も四尺も伸びるというような処であった。で作物は皆な成熟せずに終った。粟にも穂という穂もつかなかった。馬鈴薯さえ完全に出来なかった。豆、麦、稗、蕎麦――すべて小さくいじけて実を結ぶ間もないのに秋の霜は早くもやって来た。凶作という声が到る処に満ちわたった。物価は俄かに高くなった。とてもやり切れないなどと言って、半分耕した土地を売払って他国に行って了うものが頻々として続いた。ことに旅をして彼方此方を見て歩いている勇吉には、その災害の甚しいのが一層明かに眼に映った。ある村などでは、殆ど全く無収穫というような悲惨な状態に落ちているのを勇吉は見た。丘に添った村はひっそりとして煙の立っている家などはないという位であった。いつも威勢よく鈴の音をさせて山を越えたり野を越えたりして停車場の方へ行く駄馬の群にも滅多には出会わなかった。