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トシオのみたもの

トシオの見たもの

岡本 かの子

「朝日新聞」1921(大正10)年4月21日~30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,531 字 · 21 页

青空文庫

お祖父さん、僕なにもかも、すっかり分って仕舞いました」

「そうか。よかった。おお! お前の眼が、エメラルドの様に澄んで来た」

「この瞳には、いつも神様が、うつっているのですね」

「そうだ。その瞳にうつれば、お前の世界の何ひとつ、もう疑いでも不平でもなくなるのだ。そして、何もかも、皆、よろこんで、愛することが出来るのだ。ありがたいだろう? 愉快じゃないか、行って、お前の世界の人達に、お前の見たものを、すっかり話しておやりなさい。さ、わしの役目も、もう済んだぞ」

お祖父さんの姿は、その時、突然かき消す様に、トシオの瞳から、なくなりました。

すぴー、すぴー。

はろー、はろー。………………

と、にわかに欅の梢で、再び先程の鳥が鳴き出しました。

しかし、トシオはもう、鳥の姿を振り仰ごうともしませんでした。早く自分の村へかえって、自分の見たものを、人々に語って聞かせ度いために、急いで欅のこぶ根から、離れました。不思議なことには、トシオの投げ出して置いた竹の杖が、お祖父さんのと同じ様な銀の杖となって居ました。

すぴー、すぴー。

はろー、はろー。………………

と欅の梢の鳥をまね乍ら、勇んで村へ急いで行くトシオの高くすきとおった声が、しばらく野の末にひびいて居ました。