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トシオのみたもの
トシオの見たもの
岡本 かの子
「朝日新聞」1921(大正10)年4月21日~30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,531 字 · 21 页
一
一
トシオは、大そう賢く生れ付いた男の子でした。それゆえ、まだやっと、今年十一歳になったばかりですのに、もうこの世のなかのいろいろな方面の、様々なことを知って居ました。書物などで読んだことも、一々はっきり、頭に覚え込むという風でした。
しかし、あまり、いろいろ知り過ぎたせいで、このごろ敏夫は却って、沢山な疑いを持つ様になりました。先ず、どうして世の中には、こんなに無駄が多かったり、不平の種が沢山あるのだろうと、云うことが、敏夫のこの頃の不思議なのでした。
たとえば人間達が、折かく元気よく暮らして居るこの世の中に、いつの間にか流行病のバチルスが、そっと片隅から湧き出したり、でこぼこな黒い土のなかから美しい赤い花が、艶やかに咲き出たり、正しい善良な人が貧しい暮らしをして居るかと思えば、富んで遊んで暮らす人の居る世の中でもある。それから人の死ぬことや、喧嘩仕合ったりすることも……。
「ああ分らない、僕にはどうしても分らない」トシオは斯うひとり言して、頭を振ってばかり居る様になりました。
トシオの頭はこんな具合で、すっかり暗く閉じて仕舞いました。もう本を見るのも嫌なら、お友達を訪問しても、つまらないし、仕方がなしにふらふらと、一人家を出て、歩きまわりました。