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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

家主の婆あさんの姪というのが、毎晩肌襦袢一つになって来て、金井君の寝ている寝台の縁に腰を掛けて、三十分ずつ話をする。「おばさんが起きて待っているから、只お話だけして来るのなら、構わないといいますの。好いでしょう。お嫌ではなくって」肌の温まりが衾を隔てて伝わって来る。金井君は貸借法の第何条かに依って、三箇月分の宿料を払って逃げると、毎晩夢に見ると書いた手紙がいつまでも来たのである。Leipzig の戸口に赤い灯の附いている家を思い出す。らせた明色の髪に金粉を傅けて、肩と腰とに言訣ばかりの赤い着物を着た女を、客が一人宛傍に引き寄せている。金井君は、「己は肺病だぞ、傍に来るとうつるぞ」と叫んでいる。維也納のホテルを思い出す。臨時に金井君を連れて歩いていた大官が手を引張ったのを怒った女中がいる。金井君は馬鹿気た敵愾心を起して、出発する前日に、「今夜行くぞ」と云った。「あの右の廊下の突き当りですよ。沓を穿いていらっしっては嫌」響の物に応ずる如しである。咽せる様に香水を部屋に蒔いて、金井君が廊下をつたって行く沓足袋の音を待っていた。M※(ダイエレシス付きU小文字)nchen の珈琲店を思い出す。