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ひとつのめばえ

一つの芽生

宮本 百合子

「新日本」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页

青空文庫

そして、私には特にはっきりと、当然こうなるはずだったのだというような心持が著しく起っているのを感じていた。なぜだか解らないけれども、こうなるのが決して意外な出来事ではないという気がしていたのである。

人に知られまいと努めていた緊張から解放された彼は、だんだん夜が更けかかるにつれて、頭痛を感じて来た。

水枕を当てたり、氷嚢(ひょうのう)を当てたりしても、どうしても眠られないのを苦にし始めた頃から、九月三十日のあの恐ろしい大嵐が、戸外ではいよいよあらあらしくなって来たのである。

ドドドウッとたたきのめすように吹きおろす風が、樹木の枝を折り草を薙(な)ぎ倒し、家屋の角々に猛然とぶつかって、跳ね返されまた跳ね返されしては、ワワーッ! ワワーッ! と鬨(とき)の声をあげて、彼方の空へとひた走りに馳け上ってしまう。

まるで気違いのようにあっちの隅から、こっちの隅まで馳けずりまわる雨の轟(とどろ)きに混って、木が倒れたり瓦が砕けたり、どこかの扉がちぎれそうに煽られたりする音が聞えて来る。

折々青い火花をちらして明滅していた電燈は、もうとっくに消えてしまったので、蝋燭(ろうそく)をつけると、一あて風がすさぶ毎に、どこからか入って来る風がハラハラするように焔を散らす。