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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
夫人は一々戸だなや押入を開けて見せた。机の抽斗から最近の手紙類をも出して見せたが、何一つ明智の心をひくものはないのだ。
「押入などは、その朝もよく調べましたのですが、別状ございませんでした」
夫人は少しも手抜りのなかったことを示そうとした。
「だが、幽霊ででもなければ、戸締りをした部屋を抜け出すことは出来ませんね」
明智は壁紙に触ったり、窓の締りを調べたりしながらいった。
「ひょっとしたら、お嬢さんはまだ内の中にいらっしゃるのではありませんか」
それを聞くと紋三は、三千子が五日間も家の中に隠れていたとすれば彼女はとっくに死骸になっているに相違ないと思った。彼は昨夜来の悪夢の様な感じがまだ抜け切らないのだ。
一通り見てしまうと三人は元の客間へ帰った。
「お嬢さんはピアノがお好きと見えますね。奥さんはお弾きになりますか」
明智は客間の大きな立型ピアノの前に立って、鍵盤の蓋を開けながら尋ねた。
「イイエ、私は一向無調法でございますの」
「じゃ、お嬢さんの外には弾かれる方はないのですね」
夫人がそれに肯くのを見ると、明智は何を思ったのか、いきなり弾奏椅子に腰かけて、鍵盤をたたき始めた。