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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

洋服紳士と遊人風の男とは、いつの間にか同じベンチに並んで、ボソボソ話し合っていた。

「存外暖かいですね」

洋服が口ひげを撫でながら、含み声でいった。

「ヘエ、この二三日、大分お暖かで」

遊び人風のが、小さい声で答えた。二人は初対面らしいのだが、何となく妙な組合せだった。年配は二人共四十近く見えたけれど、一方は小役人といった様なしかつめらしい男で、一方は純粋の浅草人種なのだ。それが、電車もなくなろうというこの夜更けに、暢気相に気候の話などしているのは、如何にも変だった。彼等はきっと、お互に何かの目論見があるのだ。紋三は段々好奇心の高まるのを感じた。

「どうだね、景気は」

洋服は、相手の男のよく太った身体を、ジロジロ眺め廻しながら、どうでもよさそうに尋ねた。

「そうですね」

太った男は、膝の上に両肱をついて、その上に首を垂れて、モゾモゾと答えた。そんなつまらない会話が、暫く続いていた。紋三は、一寸法師に習って、長い間二人から目を離さなかった。

やがて洋服は「アーア」と伸びと一緒に立上ったかと思うと、紋三達の方をジロジロ眺めながら、不思議なことには、再び同じベンチに、太った男とほとんどすれずれに腰をおろした。