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ひとすじのなわ

一条の縄

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,201 字 · 11 页

青空文庫

「まあ、其那声を出して……。どうしたの?

何が其那に嬉しいの。

一足前に出て、しきりに泥を掘じくって居た雌鴨は、首を振りながら、喫驚した様にきいた。

「何がってお前うれしいじゃないかねえ。

まあ考えても御覧よ、虫は此那にも居るしさ、お天気はもって来いだしさ。

その上お前まで、其那に奇麗なんだもんなあ嬉しくなくってどうするんだ。

まあ一寸此方を向けよ、ほんとに俺りゃ気持が好い。

「そうねえ。

ほんとに好い工合だわ。だけどそう喋らずに此れをたべて御覧なさいよ。随分美味しいわ、よーく肥ってるんだもの。

雌鴨は泥だらけの虫を、嘴で振り廻しながら云った。

「有難うよほんとに美味しいね。

けれ共考えて見りゃあ私共はほんとに、運が好いんだよ。今まで何処へ行ったって食べるものには困ったことはなし、其那にこわいと云う程の目にも会わないんだからねえ。どうかこれからも、そうですみます様にだ。ほんとに運が悪いとなると、あの片目の雌鴨みたいなのさえ居るんだからなあ。

「片目のって? どんなんだって? 第一そんなのと私共一緒に居た事があったかしらん。

「ほらお前もう忘れたの? ついこないだまで一緒に居たじゃないか、あのうんと大きな体のさ! よくお前と突つきあいばっかりして居た癖に。