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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

艀を後に曳いていた。と、皆は手と足を一杯に振って、雀の子のように口をならべて、「万歳!」を叫んだ。

舵機室と機関室から、船の人が帽子を振って何か云った。皆は喜んで、又「万歳!」を叫んだ。

「な、あのバタバタッてのな。」――由三が隣りの奴の手をつかんで、自分の胸にあてた。「な、胸ドキッドキッてるべ、これと同じだんだとよ。――あれ船の心臓だとよ。俺の姉云ってたわ。」

「んか――?」

「嘘こけッ!」――三人目が首を突き出した。「あれモーターッてんだ。」

「モーター? モーターッたら、灌漑溝の吸い上げでねえか。えーえ、異うわ、覚だ振りすなよ!」――由三は負けていない。

「んだ、んだ!」端の方が同意した。

――小さい口論の渦が巻く。

突然S村で、煙火が挙がった。

真夏の高い青空に、気持よく二つにも、三つにもこだまをかえして、響き渡った。

「ワアッ!」

由三達はカン声をあげて、跳ね上った。

「さ、遅れたら大変だど!」

皆はもと来た道を走り出した。遅れたのが、途中で下駄を脱いだ。

岸野農場の主人が、奥様と令嬢同伴で、農場見物にやって来ることになっていた。――それが今日だった。