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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

「で、順々に一人ずつ、奥でお会いするそうだから。」

そう云うと、皆の中から、

「吉本さん、吉本さん!」と、中腰をあげて、伴が呼んだ。

「色々と地主さんに聞いて貰わなけアならない事もあるし、又皆に話して貰わなけアならない事もあるし、是非一つここで……。」

「それア出来ないんだ。」

皆は急にガヤガヤ話し出した。

「ア、皆そうやっちゃ駄目だ。――静まってけれ!」

吉本が一生ケン命制した。「今度のお出は、そんな面倒なことは一切抜きにしたものだから、それは又何時かの機会にして貰いたいんだ。――頼む!」

「そうだ、そうだ、伴さん、酒席でもあるしな。」

小作のうちで、そう云うものもいた。

「どうだ! 健ちゃ、分るべ。」

めずらしく阿部も興奮していた。

「一杯食わせやがったんだね。――阿部さん、会った時やったらええでしょうさ。」

「会った時? 一人と一人でか?――駄目、駄目! ちりちりばらばらだからな。」

「……………」

健は何か不服だった。「お会い」するのは、ただ顔をみて「まア、しっかりやってくれ」というだけだった。――じゃ、その機会をつかもう、健はそう思った。

二枚重ねた座蒲団の上に、物なれたゆるい安坐をかいて、地主が坐っているのを見ると、外で見たときとはまるで異った――岸野の存在がその部屋一杯につまって、グイと抑えつけているように