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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

だなと睨んだらその男と同じ所へ張れば、外れっこはないんだとペラペラ喋って、

「――ま、見てとくなはれ。わても男になって来ま」

そう言ってソワソワと出て行った後姿を二階の窓から見ると、痛々しい素足だった。まだ電車は来まいと、家人に足袋を持たせて後を追わせながら、しかし私は横堀をモデルにした小説を考えていた。

十銭芸者の話も千日前の殺人事件の話も阿部定の話も、書けばありし日を偲ぶよすがになるとはいうものの、今日の世相と余りにかけ離れた時代感覚の食い違いは如何ともし難く、世相の哀しさを忘れて昔の夢を追うよりも、まず書くべきは世相ではあるまいか。しかも世相は私のこれまでの作品の感覚に通じるものがあり、いわば私好みの風景に満ちている。横堀の話はそれを耳かきですくって集めたようなものである。けちくさい話だが、世相そのものがけちくさく、それがまた私の好みでもあろう。

ペンを取ると、何の渋滞もなく瞬く間に五枚進み、他愛もなく調子に乗っていたが、それがふと悲しかった。調子に乗っているのは、自家薬籠中の人物を処女作以来の書き馴れたスタイルで書いているからであろう。自身放浪的な境遇に育って来た私は、処女作の昔より放浪のただ一色であらゆる作品を塗りつぶして来たが、思えば私にとって人生とは流転であり、淀の水車のくりかえす如くくり返さ