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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

そのやみの中に立っている私は魂をひやしてまた片方に飛びのく。その後ろからも後ろからも自動車が来る。いずれも全速力で来る。夜ふけたこの辺は昼間の雑踏の時よりもなか/\に肝を冷やす事が多い。

その路傍の暗い所に薄暗い灯をともした支那そばの店がある。其店は荷車の上にこしらえられたもので、のれんが垂れ下っている。中に二、三人首を突っ込んでいる。暖かそうな湯気の中にその横顔が見える。

有楽町駅の這入り口にも小さい店のおでんやがある。そこにも又二、三人の人が暖かそうにおでんを食べている。

有楽町駅に上って眺めると、帝劇の屋根の上には電灯が沢山にともっていて、そこが歓楽の境であることを思わしめる。震災後屋根の上の翁の像が除かれて、特に帝劇という異色を認むるものがなくなったが、夜になると、この電灯が沢山ともっているという事だけでも、せめてそこが劇場であることを思わしめるに足る。

今まで見て居った芝居の事を思うて見るが、何も頭に残って居らぬ。ただ眼が疲労を感じて痛むばかりである。

今から一五、六年前に帝劇が工事を起して、鉄をたたく鎚の音が盛んに響いている時分、私は或人に案内せられてその中にはいって見た。