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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

大玄関

やはり日本人には祖先伝来の米の方が適しているらしい。そこで洋服の紳士(各事務室の重役連中は天辺(九階)の西洋料理の方に天上するのだそうで、各階からここに天下るのは、主に雇人即ち洋服細民の部に属するということを誰かから聞いた。誰だ、洋服細民などというのは、よろしく洋服の紳士諸君と申せ)も空腹になると矢も楯もたまらず、体裁も何もかまわず、かぶりつくようにして弁当飯を食うのを目撃する。即ちここで新旧文明が苦もなくかみ合う状態を目撃するのである。

大玄関

震災の時、私は鎌倉から横須賀まで歩いて、関東丸に乗って品川湾に著いた。その夜は風波が荒くて上陸が出来ず、或士官の紹介で軍艦長門に移って、はじめて安らかな眠りについた。陸地におれば絶えず余震におびえていたのが、海上に浮んでいる城の如き軍艦の上では、眠りを驚かすものは一つもなかった。人間は窮迫すると、その場限りの安易を求める。あす又陸地に上れば様々の恐怖すべきことに出あうのであるが、そんなことはどうでもよい。ただ一夜の安眠を得るということが、その時にあっては無上の慰楽である。

翌朝芝浦に上陸して見ると、右往左往に歩いている男女のそわそわしている状態は、鎌倉、横須賀辺に比べて更に甚だしかった。