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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

日曜日

私は窓を離れて再び用事に携った。そうして手を離して目をやると、蝶はなお飛んでいた。暫くしてまた目をやると、なお蝶は飛んでいた。

その日用事を果たして帰るべく窓際に立つと、もう蝶はいない。そこにはただ殺風景な事務員の影がどの窓にもあるばかりであった。

日曜日

雪の降っている日である。丸ビルの七階の事務所の窓によって中庭を見ていると、真白に積っている何のきずもない雪の上に、何か落ちて来て忽ち大きく黒いあとを印した。何事であろうと上を仰いで見ると、九階の精養軒の一つの窓に、白い洋服を著て髪を美しくわけたボーイと赤い帯を締めて白粉を塗っている女給とが笑いながら下を見ているのが眼にとまった。そうしてそのボーイの手にかためられている雪のかたまりがあるのが目に入った。やがて又ボーイの手で雪が投げられる。忽ち中庭の雪は黒くあとをつける。

中庭といっても、そこは売店の屋根になっているところで、丁度丸菱の屋根に当る。

その雪のかたまりは下の雪を破って、黒く売店の屋根が現れ出るのである。

ボーイと女給は面白そうに笑っているのである。

そのボーイは、丁度窓の敷居の前に積っておる雪を、手のひらに丸めてはそれを放るのである。