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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

「二十三日です。」

今日から数えるとあと四日しかなかった。

一座のものは皆真面目になってこの男の顔を見た。ブラジルといえばわれ等とは地球の反対の側にある。そこへ愈々三、四日うちにたって行こうというこの男の悲壮なる決心に同情した。

折柄午近くなっていた。雑誌の発送も一片づき片づいたところなので、一同で下の食堂へ飯を食いに行くことにした。

廊下の向うの隅の所に一人の婦人と校服を著た青年とがいた。

「あれが私の家内と弟です。」とその男はいった。

その細君という人はかぼそい人であった。その弟という人は顔立ちがよくその男に似ていた。二人とも淋しそうに突っ立っていたがわれ等が促すままに一同の中に加わった。

食卓をめぐるものは都合で十人であった。

その男に親しい俳人はいった。

「百姓をするのでしょうね。」

「そうです。」とその男は答えた。

それから千何百円とかで二十五町の地面を買ったという事を話した。

「そうすると立派な地主だね。」と俳人は笑った。

「そうです。」とその男も淋しく笑った。以前出京した時分はこれ程までには思わなかったが、今度は何となくその言動が淋しかった。