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まるのうち
丸の内
高浜 虚子
「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页
それから芝公園に入った時避難民の群衆に驚かされて、公園を抜けてから、道の両側の焼尽された廃墟のあとに、まだぶすぶすと燃えているものがあるのを見た。
桜田本郷町を過ぎて警視庁、帝劇の焼けあとを見、いたる所に『すいとん』の旗が出ていて、そこに人が黒山のようにたかっているのを見た。
私はこの『すいとん』に腹をこしらえたことも一、二度ならずあった。しかしこの時八重洲町を歩いているうちに、どこであったかを忘れたが、(否、どこということを十分気にもとめなかったが)ある洋館の這入口に『ライスカレー一杯二十五銭』とある札を見て、私は大旱に雲霓を得た心持でそこにはいった。そこは震災に荒されたあとは見えたが、かなり立派な食堂であった。給仕人もちゃんと白い洋服を著ていた。そして暖かそうな白い飯に琥珀のような光りのある黄汁をかけたものが、私の前に運ばれた。昨夜軍艦の中では缶詰の牛肉を食った。その牛肉は素敵に美味しいものであった。それにパンも食った。そのパンも美味しかった。が、しかし白い御飯にありつくのは久しぶりであった。ましてライスカレーというような御馳走にありつくことは、予期しなかったことであった。