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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
かれらこそはしばらくこの傷ついたこころをかばってくれるであろう……まずさしあたり雨露のしのぎに。
こう考えて、栄三郎がこの竹の塚の孫七方へ顎をあずけてからもう何日かたったが、武士には武士の事情があろうと、お兼婆さんも孫七も何にもきかぬし、栄三郎も何もいわなかった。だが、それだけ、ひとりで背負わねばならぬ栄三郎の苦しみは、身体があけばあくほど大きかったといわなければならない。
油じみた蒲団掻巻に包まれて、枕頭の坤竜を撫しながら、かれはいくたび眠られぬ夜の涙を叱ったことであろうか。
半夜夜夢さめて呼ぶお艶の名。
が、もとより恋の流れに棹さしていさえすればよい栄三郎ではなかった。若い血のときめきと武門の誓い!
お艶と乾雲!
この一つのために他を棄てさることのできないところに栄三郎のもだえは深かったのだ。
毎夜のように首尾の松の下に立って、河へ石を三つなげて泰軒に会ってはくるが、お艶の行方も乾雲丸の所在も、せわしない都にのまれ去って杳として知れなかった。
加うるに弥生のこと。
鳥越の兄藤次郎のこと。
夜泣きの刀とともに泣く栄三郎の心だった。
――裏山のかけひの音が、くすぐるようにごろ寝している栄三郎の耳に通う。