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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

まんじ巴

いつのまにか雪になっていたのだ。あやうく、

「お艶、いま戻ったぞ」

と口から出そうになるのをおさえて、身体の雪を払ってあがると……まっくら。

かじかんだ手で火打ちを擦る。

ポウッと薄黄色の灯心の光が闇黒ににじんで、珍しく取り片づいた部屋のありさまが栄三郎の眼にうつった。

お艶はいない。

二、三枚の着物や髪の道具をまとめて、あわてて家を出ていったことがわかる。女気のない部屋はどこにも赤い色彩を失って、雪夜ひとしおの寒さが栄三郎の骨にしみる。

が、かれはもう悲しんではいなかった。

「出てうせたか――汚れきった女め――あれほどとは思わなかった――」

と、吐きだすようにつぶやきながら、何か書置きでも? とジロリそこらを見まわす。

何もない。

もはやフッツリと未練をたった栄三郎、

「これあるのみだ」

正座して坤竜丸を取りあげた。

平糸巻きの鞘――上り竜を彫った赤銅のつか。

「ひき寄せてくれ、乾雲丸をひきよせてくれ」

呪文のように言ったかと思うと、ふうっと長く息を吹いた。

自暴酒でもあるまいが、若い栄三郎、どこでのんだかすこし酔っている。

「あんな女! かえってよいわ。