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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「いえ。曰くも何もございません。わたくしは先へ話をするつごうもあり、それにつけても何より大事な殿様のお心持をしっかり伺っておきたいと存じましただけで……それも今度はよくわかりましてございます。はい。ほんとにお艶さんはしあわせだ」

と、正直一図のおさよは、だんだん源十郎に感謝したい気になってきた。

「うむ、まあ、そういったようなものだが」

狡猾な笑みをひそめた源十郎、つづけざまにうなずいて、

「いつまでも立ちばなしでもあるまい。近くゆっくりと談合して改めて頼むつもりでおる」

「頼むなどとは、殿様、もったいのうございます! わたしこそお艶に代わって……」

言いかけて、おさよがあわてて口をつぐむのを、源十郎は知らん顔に聞き流して声を低めた。

言うところは、こうである。

あの、女のさけび声。

あれは、狂暴丹下左膳が、離室で櫛まきお藤を責め苛んでいるのだという。

そう聞けば、おさよにも思いあたる節があった。

源十郎がお艶の駕籠をかつぎこませた暴風雨の晩、夜更けて、というよりも明け方近く、庭口にあたってただならぬ人声を耳にしたおさよが、そっと雨戸をたぐってのぞくと、濡れそぼれた丹下左膳、土生仙之助の一行が、ひややかに構えたお藤を憎さげにひったてて、今や離室の戸をくぐるところだったが――。