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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

――思案に沈んでおさよが、耳のそばに、

「お藤が、おれに加担してお艶をかどわかしたために、刀をうばいそこねたといってな、左膳め、先日から猛りたっておるのだから、そのつもりで年寄り役にとりしずめてくれ」

という源十郎の声でわれに返ると、膝までの草を分けていつのまにかもう離室のまえ。

カッ! とただよう殺気をついて左膳の罵声がする。

「うぬッ! 誰に頼まれてじゃまだてしやがった? いわねえか、この野郎ッ……!」

つづいて、ぴしり! と鞭でも食わす音。

「ほほほほ、お気の毒さま! 野郎はとんだお門ちがいでしたねえ」

櫛まきお藤はすっかりくさっているらしい。

「やいッ! 汝あいってえなんだって人の仕事に茶々を入れるんだ? こらッ、こいつッウ!……てッ、てめえのおかげで、奪れる刀もとれなかったじゃねえかッ! な、なんとか音を立てろいッ音を!」

「ほほほ、音を立てろ――だと! 八丁堀もどきだね」

「なにいッ!」

咆吼する左膳、棕櫚ぼうきのような髪が頬の刀痕にかぶさるのを、頭を振ってゆすりあげながら、一つしかない眼を憎悪に燃やして足もとのお藤をにらみすえた。

細松の幹を思わせる、ひょろ高い筋骨、それに、着たきり雀の古袷がはだけて、毎夜のやみを吸って生きる丹下左膳、さらぬだに地獄絵の青鬼そのままなところへ――左手に握った乾雲丸を鞘