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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

栄三郎は裾を引き上げて草を踏んだ。と、なんだろう――歩にまつわりつくものがある。

拾ってみると、緋縮緬の扱帯だ。

はてな! 弥生様のらしいがどうしてこんなところに! と首を傾けた……。

とたんに?

闇黒を縫って白刃が右往左往する庭の片隅から、あわただしい声が波紋のようにひろがって来た。

「やッ! いた、いたッ! ここに!」

「出会えッ!」

この二声が裏木戸のあたりからしたかと思うと、あとはすぐまた静寂に返ってゾクッ! とする剣気がひしひしと感じられる。

声が切れたのは、もう斬りむすんでいるらしい。

散らばっている弟子達が、いっせいに裏へ駈けて行くのが、夜空の下に浮いて見える。

ぶつりと武蔵太郎の鯉口を押しひろげた栄三郎、思わず吸いよせられるように足を早めると、チャリ……ン!

「うわあッ!」

一人斬られた。

――星明りで見る。

片袖ちぎれた丹下左膳が大松の幹を背にしてよろめき立って、左手に取った乾雲丸二尺三寸に、今しも血振るいをくれているところ。

別れれば必ず血をみるという妖刀が、すでに血を味わったのだ。

松の根方、左膳の裾にからんで、黒い影がうずくまっているのは、左膳の片袖を頭からすっぽりとかぶせられた弥生の姿であった。