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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
「それはそうだろうさ。あたしみたいなお婆あさんなんか足もとへも寄れやあしまい。はははは、知ってるよ! でも与の公、お前いいことをしらせておくれだったね。ほんの少しだけれど、さ、お礼だ、取っといておくれ」
黒襟のあいだを白い手が動いたかと思うと、ちゃりいん! と一つ、澄んだ音とともに、小判が与吉の眼前におどった。
同時に。
ぽかんとしている与吉をその場に残して、お藤は、夕ぐれの庭に息づく雑草を踏んで歩き出した。嫉妬にわれを忘れたお藤、よろめく足を千鳥に踏みしめて、さながら幽明のさかいを往くように。
声のない笑いがお藤の口を洩れる――。
今さら男を慕うの恋するのという自分ではない。それが、丹下左膳のもっている何ものかにひきつけられて、あの隻眼隻手のどこがいいのかと傍人もわらえば自らもふしぎに耐えないくらい思いをよせているのに、針の先ほども通じないばかりか、先夜来すこしのことを根に持ってあの責め折檻が続いたのも、あの方に弥生という相手があってこのあたしとあたしの真実をじゃまにすればこそであったのか。
それにしても――
源十郎の殿様は、まあなんというお人だろう!