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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
言葉が切れると、夜の更ける音が耳をつき刺すようだ。
左膳は、剣を抱いて横になる。
「お藤はどうした?」
「へえ。さっき帰りました」
「すこし手荒かったかな、ははははは」
と左膳が虹のような酒気を吐いたとき、おさよの声が土間口をのぞいた。
「殿様、ちょっとお顔を拝借……」
起きあがった源十郎は、
「お艶が待っていると申すぞ。ひとりで眺めずにここへつれて参れ」
という左膳の揶揄を背中に聞いておさよと並んで母屋のほうへ歩き出した。
霜に凝ろうとする夜露に、庭下駄の緒が重く湿る。
風に雨の香がしていた。
「殿様」
「なんだ」
「あの、お艶のことでございますが」
「うん。どうじゃな? 靡きそうか」
「はい。いろいろといい聞かせましたところが、一生おそばにおいてくださるなら――と申しております」
「そうか。御苦労。いずれ後から貴様にも礼を取らせる」
「いいえ、そんな――けれど、殿様」
「なんだ?」
「あのう、わたくしはお艶の……」
いいながらおさよが納戸をあけると、一眼なかを見た源十郎、むずと老婆の手をつかんだ。
「やッ! 見ろッ! おらんではないかお艶はッ! あ! 縁があいとる! に、逃がしたな貴様ッ!」