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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

今のいままで手につかんでいたはずの左膳の手紙が! どこでいつ落としたものかなくなっているので、おや! と忠相の手もとを見ると!

これはまたどうしたというのだ。

いつ、どこで拾ったものか、皺くちゃのその手紙がちゃんと忠相の手にあるではないか。

「やッ! そ、それは――」

と、あわてふためいた栄三郎が、われを忘れて跳びかかろうとするとヒョイとさがった越前守忠相、手にした封書の裏おもてを、じらすように栄三郎の面前にかざしてにっこりした。

諏訪栄三郎殿

隻腕居士 丹下左膳拝

「いかにもその手紙は、拙者の落としたもの。不覚……ともなんとも言いようがござらぬ、恥じ入ります。お拾いくだされた貴殿にありがたく厚くお礼を申します。いざ、お渡しを願いたい――」

これが町奉行の大岡越前守とは知る由もない栄三郎、よし零落れて粗服をまとうとも、面識のない武士には対等に出る。かれは必死に狼狽を押しつつんで、こう言って二、三歩進み出たが、忠相は同時にあとへさがって、

「お手前が諏訪栄三郎といわるる。それはよいが、これ、裏に丹下左膳――隻腕居士拝とある。そこで諏訪氏貴殿におたずね申すが、この片腕は左腕でござろうの? いや、左腕でなくてはかなわぬところ、どうじゃ」