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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

いいえ!――とふたりが力をこめて首を振ると、べつに引きとめておくほどのものどもでもないとみてか、

「よし、いけ、足をとめて気の毒だったな」

と許された喜左衛門と富五郎、にげるように先を争って駈け出したが……。

こわいもの見たさに。

塀の曲り角からのぞいてみると、

同じしたくのお捕り役が二、三人ずつ、もうぐるりと手がまわったらしく、屋敷をめぐって樹のかげ、地物の凹みにぴったりと伏さっている――その数およそ二、三十人。

「えらいことになったな」

「だから先刻、婆あさんの手でも取ってしゃにむに引っぱり出せあよかった」

いいながらなおもうかがっていると、捕り手はパッと片手をかざしあって合図をした。と見るや、ツウと地をはうようにたちまち正門裏門をさして寄ってゆく。

が、喜左衛門、富五郎をはじめ、役人のうち誰も、さきほどから、鈴川方の塀の上に張り出ている欅の大木の梢、その枝のしげみに、毒蛇のような一眼がきらめいて、その始終を見おろしていたことを知らなかった。

明るい陽をうけた障子に、チチと鳥影が動くのを、源十郎はしばらくボンヤリと眺めていた。

うすら寒い静寂である。