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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
遠くか。ないしは案外近いかも知れない。
とにかくそれは、いつ朝が来ていつ日が暮れるともない窖のような闇黒の底だった。
やみ? そうだ。黒暗々の奈落。
それは、兇状持ちのお藤が、始終お上を向うにまわして陽の目を見ていこうとするために、そこへさえ飛びこめば、いつでも捕り手にスカを食わせることができるようにと、以前ひそかに細工をしておいた秘密の隠れ場所であった。いずこかはわからないが、江戸のなかには相違ない、そして誰ひとり知る者もない穴ぐらなのだから、十手に追われる左膳の身には時にとってこのうえもない便宜であった。
闇黒が左膳を包んでいる。
その暗いなかで、おのれを恋する女とのふしぎな生活がつづいて来ていた。
闇黒――ぬば玉の無明のやみ。
それはやがて剣に理を失った左膳と、恋に我を忘じ果てたお藤とのこころの姿でもあった。
いまは女の保護のもとに生きる左膳、そとの大雪も知らずに、三坪にたりない暗い穴の中をしきりに往ったり来たりしている。
お藤はまだ帰らない。
はじめお藤の懐中鉄砲によって重囲の化物屋敷からのがれ出たとき。
左膳は。
暮れそめた町々をお藤にそのかくれ家へ案内されながら心中で考えていた。