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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

幽邃な奥庭のほとり――大岡越前守お役宅の茶室である。

数寄屋がかりとでも言うのか、東山同仁斎にはじまった四畳半のこしらえ。

茶立口、上壇ふちつきの床、洞庫、釣棚等すべて本格。

道具だたみの前の切炉をへだてて、あるじの忠相と蒲生泰軒が対座していた。

あるかなしかの風にゆらいで、香のけむりが床しく漂う。

越前守忠相、ふとり肉のゆたかな身体を紋服の着流しに包んで、いま何か言いおわったところらしく黙ってうつむいて手にした水差しをなでている。

茶筅、匙、柄杓、羽箒などが手ぢかにならんで、忠相はひさかたぶりの珍客泰軒に茶の馳走をしているのだった。

そういえば今は初雪の節、口切りとあってきょう初めて茶壺をあけたものとみえる。

ぼつんと切り離したような静寂、忠相は眼を笑わせて泰軒を見た。

「わしの茶は大坂の如心軒に負うところが多い、大口如心軒……当今茶道にかけてはかれの右に出るものはあるまい、風流うらやむべき三昧にあって、かぶき、花月、一二三、廻り炭、廻り花、旦座、散茶、これを七事の式と申して古雅なものじゃが、如心軒が古きをたずねて門下に伝えておる――」

こう言って忠相はふたたびほほえんだが、泰軒には茶のはなしなぞおもしろくもないのか、それとも何か気になることでもあるのか、つまらなそうに横を向いて、障子の明るい陽にまぶし