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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

いつまでたっても相手が笑っているから、源十郎もつりこまれて、なんだか無性におかしくなった。

で、にやりとした。

すると男はふっと笑いをやんで、

「お前は、八丁堀か」

と、ぶつけるように横柄な口調である。

小銀杏の髪、着ながした博多の帯、それに雪駄という源十郎のこしらえから、町与力あたりとふんだのだ。与力の鈴源といわれるくらいで、源十郎はしじゅう役人に間違われるが、先方が勝手にそうとる以上は、かれもこのことは黙っているほうが得だと考えて、この時もただ、ぐっとにらんで威猛高になった。

「無礼者! 前に立つさえあるにいまの言葉はなんだ?」

男は眼じりに皺をよせて、

「おれのひとりごとを聞いて、お前のほうでもどってきたのではないか。天知る地知る人知る……両刀を帯して徳川の禄を食む者が、白昼追い落としを働くとは驚いたな」

「なにいッ!」

思わず柄へ走ろうとする源十郎の手を、やんわり指さきでおさえた男、

「この溝の中で、はじめから見物していたのだ。あの男の投げていった財布を出せ」いいながら指に力を入れる。

「う、うぬ、手を離せッ!」源十郎はいらだった。「この刀が眼に入らぬとは、貴様よほど酔うとるな――これ、離せというに、うぬ、離さぬか……」