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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
唸りをくれながら、あたりの乱陣に聞こえるような大声に呼ばわった。
「月輪軍之助、お相手つかまつる。いざ、おしたくを……」
すると泰軒。
「ナニ、したく? したくも何もいらぬ。どこからでも打ちこんでくるがよい」
放言。依然として身うごきだにしない。
「しからば……」
いいかけた軍之助の声は宙に消えて、同時に、早瀬をさかのぼる魚鱗のごとき白線、一すじ伸びきって泰軒の胸元ふかく!
と思われた瞬間!
パアッと砕け散ったのは、泰軒先生愛用の一升徳利で、それとともに泰軒は、ついと軍之助の腕の下をくぐり抜けて、近くの月輪のひとりをダッ! 足蹴にしたかと思うと、その、はずみをくらって取りおとす大刀を拾い取るが早いか、やはり、のっそりの仁王立ちの、流祖自源坊案不破水月のかまえ。
つねに刀を佩しない巷の流人泰軒居士、例によって敵のつるぎで敵をたおすつもりと見えるが、無剣の剣、できれば、これこそ剣法の奥極かも知れない。
しののめとともに月輪のざわめき。
それは、またもやこの乞食が刃物をとったという驚きと戒めの声々であった。
しかし、泰軒は泰軒として、
今宵の諏訪栄三郎のはたらきは神わざに近かった――。