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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
世にも奇体な名のない男!
ことに、不敵にも公儀へ対して異心を抱くらしい口ぶり――はてどこの何やつであろう?
――と、あとを見送る源十郎へ何も知らない栄三郎はしきりに礼をのべて、やがてこれも雷門のほうへいそいでゆく。
みょうな顔で挨拶を返した鈴川源十郎、眼は、遠ざかる栄三郎の腰に吸われていた。
はなしに聞いた陣太刀づくりの脇差に、九刻さがりの陽ざしが躍っている。
孤独を訴える坤竜丸の気魂であろうか。栄三郎のうしろ姿には一抹のさびしさが蚊ばしらのように立ち迷って見えた。
「よし! 五十両がふいになった以上は、あくまでもあの男をつけ狙って、丹下のやつをたきつけ、おもしろい芝居を見てやろう。乾雲と、坤竜、刀が刀を呼ぶと言ったな。それにしてもあの若造は、たしかに鳥越の――」
源十郎が小首をひねったとき、先をゆく栄三郎がまた振り返って頭をさげた。
ふふふ、馬鹿め! とほくそ笑んだ源十郎、ていねいにじぎをしていると、ぽんと肩をたたく者があって、
「ほほほ、いやですよ殿様。狐憑きじゃああるまいし、なんですねえ、ひとりでおじぎなんかして……」
という櫛まきお藤の声。