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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「――――」

「まあよい。こっちのことは第二にして、お前さんも、そうやってわざわざ出て来なすったからにゃア、何か大切な用があってのことだろう? そいつを一つ、即に聞こうじゃねえか」

いわれた時におさよは、その鍛冶富も疾うからお艶に心をよせて、今はまたお艶が夢八と名乗って深川のまつ川から羽織に出ている事実をつきとめている唯一の人間……ということなどは思いもおよばないで、きかれるままに渡りに船とばかりきょう尋ねて来た用むきをポツリ、ポツリと話し出したのだった。

どうも栄三郎がああいう柔和な人間でまことに結構だが、いってみれば働きがなく、末の見こみというものがない。殊には富五郎のいうとおり、もうお艶栄三郎がキッパリ別れているならなおのこと、いまおさよの奉公先本所法恩寺前で五百石のお旗本鈴川源十郎様が、きつう娘に御執心なされて、一度はお屋敷に閉じこめてわがものにしようとしたが、栄三郎ときれいに手を切って娘を生涯の妾にくれるならば、内々のところは奥様にして、そうならばこのさよも五百石の女隠居、眼をつぶるまで世話をしてやろうといってくださる。栄三郎にはいささか不実だが、これもなんともいたし方がない。