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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

フッと行く手に人影がさしたかと思うと白く乾いた土が埃をあげている小径のさきに、片側から、まず太刀の柄がしらが影をおとしてハッと左膳が立ちすくむまに続いて浪人髷上半、それから徐々にさむらい姿が、黒く路上に浮き出されて、同時に静かな声とともに行く手に立ちふさがったのを見れば……!

坤竜丸――諏訪栄三郎!

「待っておったぞ。左膳!」

「ヤッ! 坤竜か、うむ、栄三郎だな――ひとりかッ」

いいながら左膳、グイと片手に乾雲の柄をつき出して目釘をなめつつ、あわただしくあたりを見まわした。

シーンとして深山のよう。

ホウホケキョー、どこか近くの木で鶯が鳴いている。

栄三郎はほほえんで、

「もとより拙者ひとり。貴公の来らるるを知って栄三郎、坤竜とともにここにお待ちうけ申しておったのだ。幸いあたりに人はなし、果たし合いにはもってこいの森でござる。今までたびたび刃を合わせても、じゃまや助太刀が入って、貴公と、拙者、心ゆくまで斬りむすんだおぼえはござらぬ。またとない機会、いざ御用意を!」

残忍な笑みが左膳の頬に浮かぶと彼はガラリと調子が変わった。左膳が、この江戸の遊び人ふうの言葉になる時、それは彼が満身の剣気に呼びさまされて、血の香に餓え、もっとも危険な人間となりつつあることを示すのだ。