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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
ついに、刀を集める左腕独眼の剣士、そんなものは知らぬといわせてやった。はっはっは、これならばもう彼は相馬の士ではない。いわば野良犬……な、斬ろうと張ろうと、北の方角から文句の出るおそれはないわい。存分に……」
「そうかッ! よしッ」
「奉行いたずらに賢人ぶるにおいては――ではないが、わしにも眼がある。黙っておってもやるだけのことはやるよ。江戸の始末はわしに任せておいて、どこまでもあの船を追ってゆくがよい。早ういけ! あんなに小そうなったぞ!」
黙ってこの侍に頭を下げた泰軒、栄三郎を促して、差しまわしの船に飛び乗った。
屈強の船方がそろっている。
すぐに櫓なみをはずませて、左膳の船のあとを追い出した。
しおどめ。
左に仙気稲荷。
一望、ただ水。
広やかな眺めである。
ギイギイと櫓べそのきしむ音。
二艘の船は、こうして江戸を船出したのだった。
藍いろの海。
うす青い連山。
かえり見ると、磯に下り立つ覆面のさむらいの姿は、針の先となって視界のそとに没し去ろうとしていた。
……水と空のみが、船と船のゆくてにあった。
夕陽の辻
似よりの船あし。
風のない昼夜。
油を流したような入り海に、おなじ隔たりがふたつの船のあいだに何日となくつづいた。