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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「蒲生泰軒と申す」

「してただいま、人の家へ断りなしに――と言われましたが、お住いは?」

「困ったな。この舟でござる――いや、べつにこの舟とは限らん。いつもここらにつないである舟はすべてわしの宿だ。ははははは、天が下に屋根のない気楽な身分。わしに用のある時は、この首尾の松の下へ来て、川へ石を――さようさ三つほうることに決めよう。石を三つ水に投げれば、どの舟からかわしが起き上がる……」

と、この時!

ぐらぐらと舟が傾いて、お艶は危なく栄三郎に取りすがったが、ふしぎ! 流潮に乗って張りきったもやいの綱を岸でたぐるものがあるらしく、あっというまに舟が石垣にぶつかったかと思うと、頭の上に多人数の跫音が乱れ立って、丹下左膳のどら声が河面を刷いた。

「おいッ! 乾雲が夜泣きをしてしようがねえから、片割れをもらいに来たんだ。へッ、坤竜丸よ。おいでだろうな、そこに!」

河も岸も空も、ただ一色の墨。

その闇黒が凝って散らばったように、二十にあまる黒法師が、堀をはさんで立つ松の木下にピタッと静止していた。

左膳、源十郎を頭に、本所化物屋敷の百鬼が、深夜にまぎれて群れ出てきたのだ。