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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子はしばらくそこにたたずんで足もとの花をながめていた。石ではめこまれた花は石らしく素朴で、同時に、石をそういう花の形にはめているというところに人の心のおもしろさがある。伸子は、しばらく眺めていてから、いままで目にも入れずに暮して来たことをあやまる心持で、特別にそっとその花の形の石じきの上を草履でふんで奥へ歩いて行った。
車庫の扉があいて車がはいっている。玄関にはもう灯がついている。伸子は、小走りになって重いガラス戸をあけた。これらは、みんないい前兆である。父の泰造がもう帰って来ているというしるしである。玄関の靴ぬぎ石の上に一足靴が揃えられてあった。お客様かしら、そう思いながら、どんどん入って食堂の入口へ行った。ドアはあいていて、出窓の白いレースが涼しく見えている。案の定、泰造が、セルのふだん着の腰にゆるく兵児帯をまきつけた形で煖炉を背にしたテーブルのきまりのところに坐り、巻紙を片手にもって、手紙をかいていた。伸子は、
「お父様!」
からだじゅうでよろこびをあらわしながら、廊下のところで、わざとトンと白足袋の足を鳴らした。泰造は六分どおり白い髭のある丸顔を、びっくりしたようにふり向けた。