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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
痩型で、折襟のカラーをつけて、こがたい官僚風な大臣であるその政治家の顔を思い出すと、伸子は、おばさまである夫人の敏捷で悧溌な凹み眼と、うすく水白粉のはかれている顔や沈んだ色の紅をさした唇で、軽く、やや口早にげびない蓮葉さでものを云うときの表情を思いおこした。夫婦は、その夫婦らしい会話の間で、どんな風に、新聞に出た学生処分のことなどについて話しあうだろう。伸子は突然、あすこに息子はいなかったかしら、と思った。そして、憎悪を感じた。「断然処分する!」あすこに男の子がいるとしてもきっとまだ小さいんだろう。末っ子かもしれない。伸子は、新聞をたたみながらそう思った。
素子の翻訳した書簡集は、やがてある文芸書を専門にしている出版社から出ることにきまった。
「よかったわ――おめでとう」
素子は、うれしそうに上気しながら、つみのないまけおしみで、
「出すの、あたりまえさ」
といった。
「本当にいいものなんだもの。――もし出さなけりゃ、むこうがばかなのさ」
「それゃそうだけれど……」
伸子とすれば、間もなく、自分がこの二三年かかって書いた長い小説がまとまりかかっている。そのとき、素子の仕事も、はじめての業績として出版されることになったのを、うれしく思うのであった。