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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

蕗子の、少女めいたちんまりした唇は、改まって外国の言葉を発音するとき微かにふるえた。

「さ、こんどは、あなた」

伸子も、真面目に短い単純な文章をよんだ。けれども、伸子にはアルのきつく舌を捲き上げる発音がうまく出来ず、首をふるように力を入れていっても、それはエルに近い柔かい音にしかならなかった。

「変だね、こうしてさ」

素子は、重いほど、どっさりある髪を束ねた顔を、北向きの窓の明るみに向けて、自分の口の中を伸子に見せるようにして、

「アル、ル、ル」

と発音してみせた。

「わたしの舌はすこし短いのよ」

何度やっても成功しない伸子が弁解するようにいった。

「英語のアルも、ちゃんと出ないんですもの。耳がわるいんじゃなく、舌の出来がわるいのよ」

「――それだけよくまわるのに、アルだけ出来ない舌なんてあるかい」

蕗子が、故郷の母がこしらえて送ってくれる色の淡い、おっとりした柄の着物に素直につつまれている大柄の若いからだを動かして笑った。

三人は、それから一時間あまり、鉛筆を主役にして、いろいろに組合わされた文法の変化を稽古した。

「きょうは、この位にしておきましょうか」

すると、袖口を少しずらして、蕗子が時間をみた。