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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

」

「なに、心の中には、意識しないものだって沢山あるんだ。それは兎に角、思い切って作意を変えてしまったらどうだい。荒廃の中に蔵されてる芽ぐむ力といったようなものに。」

「僕もそう考えたことがある。然しそういうものはいつだって描ける。僕はあの景色を生かしてみたいんだ。それで努力してるんだ。曇った日には大抵出かけることにしてる。……君の容態が余りよくないのを放っといて、出かけてばかりいるのを許してくれ。」

「なに構うもんか。僕はそれほど悪いんじゃないし、看護婦さんと信子と居れば充分だ。それよりも僕は却って、君の仕事の邪魔になるのが一番心苦しい。家との関係があんな風になって、信子と二人で君の所へ飛び込んで来て、半年とたたないうちにこの病気だからね。」

「そのことなら僕の方から御礼を云わなけりゃならないよ。君の叔父さんの内々の補助で、僕まで生活がいくらか楽になったんだからね。余徳の方が大きすぎる位さ。そんなことは心配しないで、早く病気を癒すことだね。」

「うむ。」

二人が黙り込むと、看護婦は、胸部の浸布を取代える時間だと云った。そして信子の手伝いで、彼女はそれにとりかかった。