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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

凡てを得るか凡てを失うかです。そして周囲の事情は、もう猶予を許しません。岡部君の両親がどんな考えでいられるか、あなたにも分るでしょう。岡部君のお母さんが云われた言葉の意味は、あなたにも通じてる筈です。私は落付いてはいられない。何れかに決定しないうちは……。」

「木下さん、私は……。」

「何です? 云って下さい。私はどんなことでも期待している。覚悟しています。」

「あなた方は、私を品物か何かのように取引しようとしていらっしゃるのでしょう。いえ、そうですわ、そうですわ。岡部とあなたとは、私を品物か何かのようにやり取りしていらっしゃるのです。」

木下は組んでいた両腕を振りほどいた。そして両の拳を握りしめながら、信子を見つめた。それから眼を閉じた。身体を震わしていた。また眼を開くと、急に大きく息をついた。彼は云った。

「あなたは私を軽蔑していますね。いや私の心を踏み蹂っています。品物か何かのようにやり取りしてるとは……余りの言葉です。あなたこそ、私と岡部君との間を飛び廻ってるじゃありませんか。然し私はあなたと議論したくはない。私の愛を信じなけりゃ信じないでいいです。