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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

近年、村の柿の木も、栗の木も、熟れるまで実がなっていたことがなかった。みんな待ちきれなかったのだ。

子どもらはいつも野に出て、茅花をたべ、いたどりをたべ、すいばをかじった。土のついたさつまをなまで食べた。みんな回虫がいるらしく、顔色がわるかった。そんななかで病気になっても村に医者はいなかった。よくきく薬もなかった。医者も薬も戦争にいっていたのだ。おばあさんの亡くなったときには、村の善法寺さんまでが出征して留守だった。近村の寺の坊さんは、戦死者でいそがしかった。終戦のちょっとまえに帰った善法寺さんは、帰るとすぐ供養にきてくれたが、今また、つづけて八津のためにお経をあげてもらうことになるなど、どうして考えられたろう。

おばあさんは死ぬまえ、菩提寺にお坊さんもいないことをくやんだが、小さな八津は坊さんのことなど考えたこともなかったろうと思うと、大吉は、声はりあげて経をよむ坊さんまでがうらめしかった。お母さんの話では、八津が生まれたときにお父さんはもう、からだのぐあいが少し悪くなりかけていて、船をおりて養生するつもりだったという。永年、世界の七つの海を渡りあるいたお父さんは、今はもう家に帰って休みたいといい、八つ目の港をわが家にたとえて、そのとき生まれた女の子に八津という名をつけた。