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にかいから

二階から

岡本 綺堂

「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页

青空文庫

ある日、庭に遊んでいる雀が物に驚いて飛び起った時に、彼の拡げた翼はあたかも蜘蛛の巣に触れた。鳥は向う見ずに網を突き破って通った。それから三十分ばかりの間、小さい虫はまたもや忙がしそうに働かねばならなかった。彼は忠実なる工女のように、息もつかずに糸を織っていた。

彼は善く働くと私はつくづく感心した。それと同時に、彼を駆逐することは所詮駄目だと、私は諦めた。わたしはこの頑強なる敵と闘うことを中止しようと決心した。

私が蜘蛛の巣を払うのは勿論いたずらではない。しかし命賭けでもこれを取払わねばならぬというほどの必要に迫られている訳でもない。単に邪魔だとか目障りだとかいうに過ぎないのである。これが有ったからといって、私の生活に動揺を来すというほどの大事件ではない。それと反対に、彼に取っては実に重大なる死活問題である。彼が網を張るのは悪戯や冗談ではない、彼は生きんがために努力しているのである。彼は生きている必要上、網を張って毎日の食を求めなければならない。彼には生に対する強い執着がある。毎日払い落されても、毎日これを繕ってゆく。恐く彼はいよいよ死ぬという最終の一時間までこの努力をつづけるに相違あるまい。