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にかいから

二階から

岡本 綺堂

「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页

青空文庫

十 お染風

跡はひっそりして、シュウマイ屋の唐人笛が高く低く、夜風にわななくような悲しい余韻を長く長く曳いて、横町から横町へと闇の奥へ消えて行きます。どこやらで赤児の泣く声も聞えます。尺八を吹く声も聞えます。角の玉突場でかちかちという音が寒むそうに聞えます。

寒の内には草鞋ばきの寒行の坊さんが来ます。中には襟巻を暖かそうにした小坊主を連れているのもあります。日が暮れると寒参りの鈴の音も聞えます。麹町通りの小間物屋には今日うし紅のビラが懸けられて、キルクの草履を穿いた山の手の女たちが驕慢な態度で店の前に突っ立ちます。ここらの女の白粉は格別に濃いのが眼に着きます。

四谷街道に接している故か、馬力の車が絶間なく通って、さなきだに霜融の路をいよいよ毀して行くのも此頃です。子供が竹馬に乗って歩くのも此頃です。火の番銭の詐欺の流行るのも此頃です。しかし風のない晴れた日には、御堀の堤の松の梢が自ずと霞んで、英国大使館の旗竿の上に鳶が悠然と止まっているのも此頃です。

まだ書いたら沢山ありますが、先ずここらで御免を蒙ります。さようなら。

十 お染風

この春はインフルエンザが流行した。