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にかいから

二階から

岡本 綺堂

「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页

青空文庫

七 蛙と騾馬と

その日は一日降暮した。夕方になると彼は私の庭で歌い始めた。

家内の者は逃げた鶴が再び戻って来たように喜んだ。築山に最も近い四畳半の部屋に集って、茶を飲みながら蛙の声を聴いた。私の家族は俄に風流人になってしまった。

俄作りの詩人や俳人は明る日になって再び失望させられた。蛙は再び逃げてしまった。今度はいくら探してももう見えなかった。

その後にもしばしば雨が降った。しかも再び彼の声を聴くことは能なかった。隣の庭でも鳴かなかった。甥の作った水出しは物置の隅へ投げ込まれてしまった。

「あんなに可愛がって遣たのに……」と、甥も下女も不平らしい顔をしていた。

実際、我々は彼を苦めようとはしなかった。寧ろ彼を愛養していた。しかも彼を狭い庭の内に押込めて、いつまでも自分たちの専有物にしておこうという我儘な意思を持っていたことは否まれなかった。そこに有形無形の束縛があった。彼は自由の天地にあこがれて、遠く何処へか立去ったのであろう。

蜘蛛は私に打克った。蛙は私の囚われを逃れた。彼らはいずれも幸福でないとはいえまい。

七 蛙と騾馬と

前回に蛙の話を書いた折に、ふと満洲の蛙を思い出した。